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Working Backwards日本語版「アマゾンの最強の働き方 」監訳者解説
講演・執筆・その他 Working Backwards サービス・商品の企画開発
Working Backwards(ワーキング・バックワーズ)日本語版「アマゾンの最強の働き方」(ダイヤモンド社刊)を監訳する機会をいただきました。ダイヤモンド社の許可を頂き、監訳者解説を下記に掲載します。
なお、【対談】『アマゾンの最強の働き方』監訳者・紣川謙 x ダイヤモンド社編集者 についてはこちらの投稿をご覧ください。
Contents
『アマゾン・ウェイ』を実践すること―日本の読者への示唆
はじめに
ワーキング・バックワーズの原書が出版され、キンドルでその内容を目にしたとき、「この本の日本語化に貢献したい」と強く思いました。
本書に詳しく書かれているように、ワーキング・バックワーズは「お客様からスタートし、さかのぼって考える」という思考の枠組みです。私が2007年から11年間在籍したアマゾンの仕組みの中でも、最も素晴らしいと考えているもののひとつです。私は当初マーケティング、後にアマゾン・プライムの日本の責任者を務め、同時にCXBR(カスタマー・エクスペリエンス・バーレイザー)の日本のリーダーを務めました。CXBRとはワーキング・バックワーズの啓蒙・推進を行うアマゾニアンのグループです。研修や新サービスの提案(本書にあるプレス・リリース形式)のレビューなどを通して社内にその考え方を広めました。目指したのはお客様起点でプロダクトを発明し、イノベーションを実現することです。
私がワーキング・バックワーズという思考の枠組みを素晴らしいと思う理由は、理想とする顧客体験からスタートする考え方が、どんな組織でも使える普遍的なものだと考えているからです。顕在・潜在する顧客のニーズに応え、新たな価値を創出することにつながります。普遍的であると同時に、シンプルでわかりやすい考え方です。日本語化でより多くの読者がその素晴らしい考え方から学ぶことができる、との思いを著者のコリン・ブライヤーとビル・カーに伝えたところ、お二人とマクミラン社・ダイヤモンド社のご厚意で監訳の機会を頂くことになりました。
著者について
著者の二人はアマゾンのシアトル本社にて、今日のアマゾンの礎となった重要な意思決定、新事業の創出、仕組み作りに直接たずさわった経営幹部です。
コリンは1998年から12年間在籍し、2003年から2005年まで、ジェフ・ベゾスのテクニカル・アドバイザー(TA)として創業者と文字通り隣り合わせで働きました。TAは本書で「ジェフの影」と説明されていますが、右腕・参謀というとわかりやすいでしょう。その間、アマゾンプライム、AWS、キンドルといった事業やワーキング・バックワーズをはじめとするアマゾンの最も重要な仕組みが生まれました。
ビルは1999年から15年以上にわたりアマゾンに在籍し、バイス・プレジデント、デジタルメディアとして、今日のアマゾンの主要事業のひとつ、デジタルメディアをスタートしました。ビルは日本の読者の皆様にもお馴染みのアマゾン・ミュージック、プライム・ビデオ、ビデオ制作を行うアマゾン・スタジオなどを世に出し、事業の経営を行いました。
本書の今までにない価値と魅力
本書「ワーキング・バックワーズ」から私が感じた魅力は、第一に心を動かすような経営の書として書かれており、日本で事業を展開する企業(国籍は問いません)に深い洞察を与えてくれることです。アマゾンの数々の経営の仕組みを、その創出に直接携わった人物が説明しています。「ワーキング・バックワーズ」はシアトルの経営陣の中枢にいた人物が、これらの仕組みを具体的・詳細に説明した初めての本と言えるでしょう。経営の仕組みとは、冒頭に述べたワーキング・バックワーズを筆頭に、行動規範・採用法・組織・コミュニケーション・経営指標など広範にわたります。「お客様に新たな価値を提供し、イノベーションを起こしたい」「企業理念を実現する優秀なリーダーを採用し、育てたい」「事業の長期的な成長を実現したい」といった課題をかかえる企業が、アマゾンから多くのヒントを得ることができると感じました。
第二に、これらの仕組みやアマゾンの主要事業の誕生のストーリーが克明に描かれていることです。主要事業とは、例えばアマゾンプライムやプライムビデオ、成長著しいAWSなどです。これらのストーリーは決して興味を引きつけるだけの裏話ではありません。イノベーションに関わった当事者たちが直面した困難・意思決定・そして結果を出したときの喜びを、その場にいた人でなければ書けない鮮明な言葉で記した物語です。謝辞に挙げられている多くのアマゾニアンの取材もふまえ、真実に則して書かれています。その多くは私もよく知る経営リーダーで、アマゾンでも最も重要な役割を担ってきた人たちです。原書の裏表紙にワールドワイド・コンシューマー事業のCEO(当時)、ジェフ・ウィルキの推薦の言葉がさりげなく書かれていたことにも印象を受けました。ジェフ・ベゾスと共にアマゾンの事業を築き、育て上げた「もう一人のジェフ」は二〇二一年三月に退任しました。多くのアマゾニアン—元社員である私を含む—の心からの尊敬を集める、アマゾンの伝説の経営者の一人です。
こだわり・仕組み・リーダーシップ
『ワーキング・バックワーズ』には、日本の読者への溢れんばかりの示唆があります。日本の企業には、「アマゾン・ウェイ」から学べることが数多くあるはずです。ここで私の気づきの例を挙げてみましょう。こだわり・仕組み・リーダーシップです。
アマゾンには「地球上で最もお客様を大切にする企業になる」という企業理念があります。企業理念に経営層を含む全社員がこだわり、実践のための仕組みがあり、リーダーである全社員の日々の意思決定と行動に裏打ちされています。
私は現在日本で事業展開する様々な企業の経営リーダーと仕事をしています。そこで気づいたのは、「お客様を大切にする」「顧客中心主義」「お客様第一」といった企業理念を持っている日本の企業は大変多いということです。日本はお客様を大切にするおもてなしの国であり、このような企業理念が多いことは素晴らしいことだと思います。
しかしながら、そういった理念を持った企業で、現実にお客様中心に経営が行われているか、また、アマゾンのように、顧客を起点とするプロダクト開発でイノベーションを実現できているかというと、必ずしもそうとは言えません。違いはどこにあるのでしょうか。
良い企業理念があっても、ウェブサイトのどこかに書いてあるだけでは人は動きません。経営層・全社員を含むすべてのリーダーが企業理念に徹底的に「こだわる」ことが必要です。企業理念が日常の判断でどう使われているか、本書では最初の章から具体的に記されています。それを聞いた人がワクワクするような企業理念をつくり、共感を得、日常的に語られることよって、企業理念は組織に広がっていきます。
「仕組み」の例として、採用プロセスがあります。本書はアマゾンの「採用」の基準や面接手法を紹介しています。採用基準には「お客様へのこだわり」を含むリーダーシップ・プリンシプルを、面接では「行動インタビュー」を使い、求める人材を採用する仕組みがつくられています。一方、「お客様第一」という理念を持つ企業で「お客様第一に行動できること」を採用基準のひとつとし、それを示す行動の具体例を面接で深掘りしている例はどれほどあるでしょうか。
強い「リーダーシップ」は企業理念を現実のものとするために不可欠です。企業理念を実現しようとするすべてのリーダーが、企業理念のオーナーとして行動し、困難を乗り越えることが必要です。リーダーシップは統率力や指導力と訳されることが多い言葉ですが、実際には複雑な概念です。アマゾンで大切だと考えられている、リーダーの行動規範とはどういうものか、アマゾンのリーダーたちはそれらを判断軸としてどう活用しているかを本書は具体的に説明しています。
本書を今日からに役立てるには
日本の読者の皆様が、日本語版の出版によりアマゾン・ウェイにふれる機会が増えることを願っています。アマゾン・ウェイに含まれるものは「お客様からスタートしてさかのぼって考える」という素晴らしい考え方や、アマゾンの様々な分野で成功を収めた経営の仕組みです。本書に書かれている提案の中から一つでも二つでも実践することにより、多くの学びが得られるでしょう。
アマゾンのリーダーシップ・プリンシプルが示しているように、リーダーが実行するアイデアは自分たちが生み出したものだけに限りません。アマゾンで成功したアイディアを参考にすることで、最初の価値ある一歩を踏み出すことができます。実行したアイデアはすぐにうまくいくとは限りません。アマゾンでも多くの失敗と試行錯誤の後に大きな成功があったことは本書のストーリーが示す通りです。アイディアを試し、オーナーシップをもって困難を乗り越え、徹底的に実践を続けることによって、日本の企業の素晴らしい企業理念を実現することができると私は信じています。
本書を手に取った日本の現在・将来のビジネスリーダーが、お客様のためにイノベーションを実現し、世界が見たこともない新たな価値を創出することにつながれば幸いです。
監訳者 紣川 謙(かせがわ けん)
デジタル戦略・マーケティングコンサルタント。株式会社カスタマー・パースペクティブ代表取締役。武蔵野大学データ・サイエンス学部客員教授。2007年から11年間アマゾンジャパンに在籍、経営メンバーを務める。バイスプレジデント、コンシューマー・マーケティング統括本部長、プライム統括事業本部長を歴任。同時にカスタマー・エクスペリエンス・バーレイザーの日本のリーダーとして、ワーキング・バックワーズの取組みを推進。
Working Backwards (ワーキング・バックワーズ)関連リンク
Working Backwards LLC. www.workingbackwards.com コリン・ブライヤーとビル・カーが共同設立した会社
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