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顧客体験を描く(1. 文章編)
サービス・商品の企画開発 カスタマーエクスペリエンス
株式会社CustomerPerspective
代表取締役
紣川 謙
Ken Kasegawa
顧客体験不明の新商品・サービス?
新規事業や新商品・サービスの企画書・設計書に数多く接する中で、気づきの一つは顧客体験不明なものが多いこと。顧客体験は最も大切な要素のひとつなのに、全くふれていないことが少なくありません。「うちの企画書には商品・サービスについて詳しく書いてある」と考える方もいらっしゃるでしょう。それでは一度、企画書に入っているものが、顧客体験なのか、機能なのか、このブログを読んだ後に確認してみてください。顧客体験がしっかりと描かれていれば、きっと良く考えられた企画書です。
本ブログでは、「顧客体験」を描くことの大切さと、企画書・設計書でよく見る「機能」との違いについて考察。まずは顧客体験を言語化し、文章で描く方法を考えます。顧客体験を描写する方法には、文章・スケッチ・ストーリーボード・ビデオや動くプロトタイプの活用など、色々な手法が存在。視覚化して伝えることもとても大切ですが、別の機会にブログ投稿します。
写真:ジャングルクルーズ
(Walt Disney World Resort in Orlando, Florida)
出所:Adobe Stock
機能の説明は充実している
新商品・サービスの企画や設計で見ることが少ない顧客体験と反対に、大変良く見るのが、機能の説明です。機能の説明と顧客体験の描写は何が違うのでしょうか。両者の比較のため、具体例としてテーマパークや遊園地の、アトラクションの魅力の伝え方をとりあげましょう。
アトラクションのよくある説明は以下のようです
プレーン・コースターは、日本初の360度回転するリフトを採用した、日本最速の屋外型コースター!コースは全長1,000メートルで、飛行機の曲芸飛行を再現。設計はアトラクションの専門家集団、スリリング・カンパニーです。
これは現実のテーマパークや遊園地のものではありませんが、試しにこの文書をそのまま検索エンジンにかけてみてください。たくさんの似た例を簡単にみつけることができるはずです。
「プレーン・コースター」の説明を読んで、コースターに乗ったらどんな感じか、みなさんに伝わるでしょうか。どの位「楽しい」と想像できるでしょうか。その結果どの位「乗りたい」と思うでしょうか。
機能の主語
先ほどの例は機能の説明。機能とは「物事が備えている働き」のことです(注1)。機能の説明の典型的な特徴は、主語が「物やサービス、あるいはその提供者」であること。先ほどの例では、主語はプレーン・コースター。リフトを採用し、曲芸飛行を再現したのは遊園地。設計をしたのは専門の企業です。
機能を実現するのが性能・仕様です。性能とは「物事の性質や能力」、仕様は「物事をする方法・物事の構造や内容」のこと(注1)。360度回転することや日本最速であることは性能、全長1,000メートルは仕様です。
顧客体験とは
では顧客体験とは何でしょうか。もともとCustomer Experienceという言葉を訳したもの。顧客体験を理解する前提として、文字通り「顧客の」体験ですから、体験する主語は顧客であることが重要です。加えて大切なのが、「体験」の内容。体験で最も重要なのは、顧客が「何ができるのか」「どう感じるのか」だと私は考えています。顧客体験と機能を比較すると、下記の表のようになります。
Customer Experienceという概念を広めた先駆者の一人、Bernd H. Schmittは、著書「Experiential Marketing」で、その基礎となる5つのタイプの顧客体験として以下を挙げています。
- Sense(感覚でとらえる)
- Feel(感じる)
- Think(考える)
- Act(行動する)
- Relate(自分ごと化する)
注:訳は筆者。一部意訳を含む。
「何ができるのか」はAct、「どう感じるのか」はFeelやSenseにあたるでしょうか。商品・サービスが素晴らしい顧客体験を実現するためには、顧客が望むことができることが大切。加えて顧客がその体験をポジティブ(前向き)に感じてくれることも重要です。他にどこにも無い、楽しくワクワクするような体験ができる商品・サービスなら、きっと多くの顧客に利用してもらえるでしょう。
主語を変えて、顧客体験を描く
テーマパークや遊園地のアトラクション魅力を伝えるために、顧客体験を描く方法を考えてみましょう。ここでは顧客体験を大切にする企業として注目される、ディズニーを取り上げます。
参考記事:Forbes – 5 Lessons From Disney’s Magical Customer Experience
例えばディズニーリゾートの人気アトラクション、ジャングルクルーズはどうでしょうか。日本のウェブサイトでは以下のように描かれています。
ジャングルをこよなく愛する、陽気で勇敢な船長のボートに乗って、ゾウやワニ、ライオンなどのさまざまな野生動物たちを観察しながらジャングルを進む探険ツアー。探険の途中では、驚きでいっぱいの未知なる体験が待ち受けています!
ジャングルクルーズの説明は顧客体験を上手に描写した具体例です。先ほどの機能の説明と違って、主語は顧客。ボートに乗るのも、動物を観察するのも、ジャングルを進むのも顧客である「あなた」。
私がジャングルクルーズに参加したのは遠い昔ですが、その時のワクワクした体験が目の前に浮かび上がって来ます。水しぶきで濡れたことや、陽気な船長のアドリブとダジャレで何度も吹き出したことを思い出しました(今でも船長が同じダジャレを飛ばしているのかは不明です)。
ウェブサイトのジャングルクルーズの説明に機能・性能・仕様を説明する数字はありません。しかしながら、アトラクションに参加することで「何ができるのか」がありありと浮かんできます。そして「ジャングル愛にあふれる陽気な船長との未知なる体験」がどんなに楽しく・ワクワクするものか、読んだだけで伝わってきませんか。
顧客体験を描いてみよう – 目に浮かぶように
顧客にとって大切なのは「その商品・サービスで何ができるか・どう感じるのか」。商品・サービスを利用し、ファンになってくれるのは顧客。ですから、顧客体験は企画段階でしっかりと検討し、具体化すべきなのです。
AmazonのWorking Backwards(ワーキング・バックワーズ)の5つの質問の最後は、”What does the experience look like?”「お客様の体験はどのようになりますか?」です。
AWS re:Invent – Working Backwards: Amazon’s approach to innovation
Working Backwardsのプレスリリースを活用した顧客体験の描写例は、こちらにあります。私が自ら書いたプレスリリースです。
5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクト(2. 理想の未来像をWorking Backwardsの手法で描く)
顧客が「何ができるか」「どんなことを感じるのか」がありありと目に浮かぶように、顧客体験を描いてみましょう。最初は文章でも、スケッチでもかまいません。描いたものを、まわりの人に読んで、見てもらいましょう。読んだ人、見た人が「ここに行ってみたい」「この商品が欲しい」「このサービスをぜひ使ってみたい」と心から思ってくれるなら、それは間違いなく良いアイディアです。
関連リンク:
Working Backwards(ワーキング・バックワーズ)日本語版「アマゾンの最強の働き方」(ダイヤモンド社刊)
Working Backwards(ワーキング・バックワーズ) – BezosとJobs、Backcastingの思考に見る独自性と共通点
注1: 現代語に強い大辞泉・大辞林の説明をもとに文脈にそって言い換えたもの。大辞泉によると
- 機能:ある物が本来備えている働き。
- 性能:機械や道具の性質と能力。
- 仕様:物事をする方法。機械類や建築物などの構造や内容。