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良いアイディアでも直面。「ネガティビティ・バイアス」の罠をさけるには

サービス・商品の企画開発 Working Backwards

紣川謙_WorkingBackwards_ワーキングバックワーズ

 

株式会社CustomerPerspective
代表取締役
紣川 謙
Ken Kasegawa

 

はじめに

「徹夜で資料をつくり、部長に向けたプレゼンに臨んだ新規事業のアイディア。しかし、プレゼンを聞いた部長の最初の言葉は『それは無理だろう』だった・・・」みなさん似たような経験はありませんか。良いアイディアなのに、その可能性を検証するところまで至らないのは本当に残念です。

良くある理由は「最初からいろいろ問題を指摘されてつぶれてしまうこと」新規事業のアイディアが「ペシャン」と音を立てるように崩れ去る状況に私が遭遇した経験は、数え切れません。私が見る限り、よく考えられた、魅力的なアイディアでもそういうことが起こるのです。

本ブログでは、良いアイディアの可能性をつぶさずに育てるにはどうしたら良いか、評価者・関係者・提案者の立場から考えます。

ネガティビティ・バイアスとは

生まれたてのアイディアが問題を指摘されてつぶれてしまう理由には、ネガティビティ・バイアスが深く関わっていると私は考えています。ネガティビティ・バイアスとは、認知バイアスのひとつ。「多くの状況で、ネガティブな事象がポジティブな事象よりも目立ち、影響力があり、事象の中で優勢であり、一般的に効力があること」(Paul Rozin and Edward B. Royzman, 2001 訳は筆者)をさします。

街で買い物をしていて、1件目のお店で買った商品と同じものが、2件目のお店で半額で売っていて、すごく悔しい思いをしたことはありませんか?あの感覚です。反対に、2件目のお店で2倍の値段で売っていても、それほど有り難みを感じないのが不思議。ネットでレストランを探していて、カスタマーレビューを見る時に、ネガティブなレビューが気になって店を選べないことはありませんか?同じくらい良いレビューもあるのに・・・あの感覚です。

ネガティビティ・バイアスの影響を考える上では、行動経済学者のDaniel Kahneman氏らが提唱したプロスペクト理論が参考になります。この理論のもとになったのは損失回避に関する研究。

出所:Thinking, Fast and Slow, Daniel Kahneman

研究によれば、数値上同じ価値のものを「失うこと」と「得ること」を比較すると、人の知覚上の価値は「失うこと」が約2倍で、上記のグラフが示す通り。損失回避だけでなく、先ほどの例に挙げたように、色々な場面でネガティビティ・バイアスが顔を出すのが困りものです。

新規事業のアイディアにもどりましょう。上司や同僚から最初にネガティブなことをたくさん言われると、アイディアの提案者はこんなことを考えます。「アイディアがうまくいかないと言われちゃった。◯◯さんが言うならやっぱりだめかな」 良いアイディアは優秀な若手から出てくることも多いですが、経験の少ない、ナイーブな人であるほど、ここから前にすすめないことが多いのが残念です。

あのアイディア、良いところがたくさんあったのに・・・

では、ネガティビティ・バイアスに影響されず、良いアイディアを育てるには、どうしたら良いでしょうか。アイディアに関わる3つの異なる立場 – 提案者、評価者、関係者 -から考えてみましょう。

すべての関係者ができる「ポジティビティ補正」

新規事業に関わるすべての関係者がまずできることは「ポジティビティ補正」。「ポジティビティ補正(Positivity Adjustment)」とは、「ネガティビティバイアスが発生する状況で、ポジティブな側面を強調し、思考のバランスをとること」私が自ら考え、実践している方法論です。

損失回避に関する研究結果に基づく、ネガティブな事象がポジティブな事象の約2倍影響力があるという法則(ここでは仮に「2倍の法則」と呼びます)がこの場面にもあてはまるとしましょう。ネガティビティバイアスに影響された人は、みなさんのアイディアの良いところよりも、悪いところに2倍程度気づきやすいはず。評価者や関係者の立場にいる人は、フィードバックをするときに、ポジティブな側面を2倍意識すればバランスがとれます。

フィードバックを促進する立場にいる人は「最初に『アイディアの良いところ』、次に『アイディアをどうしたらもっと良くできるか』を話してください」ということで、バランスの取れた良い議論が生まれます。現在私はファシリテーターの立場で議論を促進することが多いので、この方法を使っています。

下記のようなバランスト・フィードバック・シートを使うのも良いでしょう。シートの右側・左側どちらにもしっかりフィードバックを記入しないと、バランスがとれていないことが一目でわかります。ポジティビティ補正をすることで、チームのモチベーションが向上し、建設的な議論が促進されます。

評価者や関係者が補正をしてくれない場合も多いでしょう。そんな時、提案者は、もらったフィードバックのポジティブな要素を2倍にして、自分の頭の中で補正をすることができます。新しいアイディアが最初受け入れられないのは、ビジネスでも、学問でも、芸術でも同じ。「人はネガティブな反応をするものなんだ」と意識し、自分の頭の中で補正し流されないことで、「新しいアイディアを実現できる人」に一歩近づきます。

評価者や関係者は「加点法」「改善・向上策」「代替案」を意識する

みなさんが評価者や関係者の立場にいるなら、他に何ができるでしょうか。私の経験では、新規事業案を評価をする時に、減点法が使われることが多数。顧客ニーズは?競合は?実現できるの?もうかるの?リスクは?減点される理由はいくらでもあります。最初から完璧な案などありません。評価者や関係者は、特にプロジェクトの初期には加点法で考えることをこころがけましょう。良いところがたくさんあるアイディアが見込みあるアイディア。減点法ではネガティビティバイアスで覆い隠されてしまう、アイディアの良いところがより良く見えてくるはずです。

加点ばかりしていると、アイディアの問題を解決し、改善する機会を逃してしまうかもしれません。問題を指摘するなら、「どうしたらより良くなるか」のヒントになる改善・向上策を合わせて提示しましょう。もっとよい代替案があれば、共有しましょう。改善向上策・代替案がないなら、もとのアイディアが最もよいということになります。あなたが改善向上策や代替案を持っているなら、提案者はあなたが「助けてくれている」と感じるはず。その結果、「良い新規事業をいっしょに創っていこう」という前向きな雰囲気をつくることができます。

提案者は「問題」を想定し「解決策」を考えておく

みなさんが提案者の立場にいるなら、何ができるでしょうか。まず評価者や関係者の立場に立って、アイディアの問題点をできるだけたくさん挙げてみましょう。ここではあえて、思い切りネガティビティ・バイアスに自らとらわれることが、より良い結果につながります。次に、指摘された問題点を解決する方法を、ひとつひとつ考えておきましょう。Working Backwardsの手法を使うなら、FAQに厳しい質問をあえて記入することで、効果的に議論の準備ができます。

先ほどの「減点法」で聞かれるような質問が来たらどうするのが良いでしょうか。例えば良く聞かれる質問に、「そのアイディア、どうやって実現するの?」があります。実現性がないと思われると、提案の評価は厳しくなります。

そんな時、以下のような答えを用意できていればどうでしょうか。「アイディアを実現するには、A、B、C3つを解決することが必要です。Aは既存の技術で解決できます。Bはまだ研究中ですが、1年以内の解決を目指しています。Cは自社の技術で開発するかわりに、提携先の技術で解決することができます」

質問した人は、提案者であるあなたがしっかりと実現可能性まで検討したことを理解するでしょう。質問を予想し、解決策をあらかじめ考えることで、みなさんのアイディアはさらに説得力を増すはずです。

やってみよう

新規事業開発に関わる人は、ネガティビティ・バイアスの存在を意識し、頭の中でポジティビティ補正をしてみましょう。

みなさんが評価者や関係者の立場にいるなら、加点法をこころがけましょう。問題を指摘するなら、「どうしたらより良くなるか」のヒントになる改善・向上策を合わせて提示するか、もっとよい代替案を共有しましょう。

みなさんが提案者の立場にいるなら、アイディアの問題に関する厳しい質問をあらかじめ想定し、解決策を考えておきましょう。

これらの手法を組み合わせることで、関係者は新規事業案の良い点・足りない点をバランスよく評価することができ、組織で協力して良い新規事業をつくることができるはずです。私のご提案が読者の皆様のお役に立つことを願っています。

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