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5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクト(4. 最終回 – 結果と学び)

Working Backwards サービス・商品の企画開発

紣川謙_5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクト

CustomerPerspective
代表取締役

武蔵野大学データサイエンス学部 客員教授

紣川 謙   Ken Kasegawa

 

2023年10月、石垣島漂着ゴミ回収プロジェクトの実証実験がスタート。石垣島の美しい海を守るために何ができるのか?その答えを求めて始まった挑戦の結果は・・・

前回のBlog:5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクト(3. 実証実験を行う)

キャンペーンへの期待

マーケティングの施策を実行するときには、結果を予想し成功の基準を設定することが大切。なぜかというと、予想値や成功の基準を設定することが、施策設計の良否の試金石となるからです。対象顧客は誰で、どのくらいの人がキャンペーンに接し、何人が行動をとってくれるのか。施策の設計がしっかりしていないと予想はたてられず、数字を出すには参考データも把握しておく必要があります。

過去の同様のキャンペーンの実績を参考に関係者と話し合った結果、投稿数は10程度ではないかとの予想も。石垣島という限られた場所での実証実験とは言え、投稿が10では寂しい。もっと多くの人にプロジェクトを知ってもらい、盛り上げたいと考えた結果が、前回のブログに投稿した様々なマーケティングの取り組みでした。

5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクト_まーるを使ったキャンペーン

5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクト まーるキャンペーン

いよいよキャンペーン開始!ゴミ回収の壁は高い?

2023年10月12日、5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクトを「まーる」のスポットとして公開し、キャンペーン開始。どんな取り組みでも、最初に世の中に出すときにはドキドキします。投稿の締め切りは11月10日。この1ヶ月の間にどれだけキャンペーンの認知を高め、投稿してもらい、ゴミ回収につなげられるかかが勝負。

しかしながら、最初の1週間、キャンペーン参加申請はあったもののゴミ回収の報告はゼロ。「やはりゴミ回収の壁は高いのか」と意気消沈。そんな時、読者のみなさんならどうされますか。

私たちが行ったことのひとつは、週に1回まーるの獲得トップ10の参加者のニックネームを発表すること。「リーダーボート」とよぶ上位者リストを作り、事務局から「まーる」のコミュニティに投稿します。頑張った人が努力を認められることで、その人も、まわりの人ももっと頑張れると考えたからです。

そんな中、励みになったのは「プロジェクトを応援します」というキャンペーン参加者のみなさんの声。たくさんのサポーターを得た気分です。ここにその声の一部を紹介します。

5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクト_参加者のコメント

プロジェクト参加者からいただいたコメントより

アースクリーン – 漂着ゴミの現実と大自然の美しさ

キャンペーン中、縄文企画の田中さんのご厚意で、早朝のアースクリーンに参加させて頂きました。当初予定していた10月30日はあいにくの天気でハロウィン当日の10月31日に順延。観光客に人気の川平・米原・底地などの海岸は管理者がいて海岸もきれいです。縄文企画のアースクリーンでは、観光客が行かない手付かずの海岸に日の出前に到着しゴミ回収。見渡す限りの「ありのままの海岸」に漂着するゴミの量に私は圧倒されました。

田中さんによると、ペットボトルのコードでどの国から流れてきたのかを見分けられるとのお話。自分が拾ったペットボトルの内訳をみると日本のものは比較的少ないのに気づきます。多くは中国・台湾や韓国からで、中には遠くベトナムやタイから流れ着いたものも。たまたま私が拾ったタイのペットボトル、後ほど書きますが役に立ちました。

5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクト_ペットボトル

様々な国から石垣島に流れついたペットボトル

でもこれは石垣島への潮の流れの影響で、「日本は悪くない」ということではありません。日本のペットボトルは国内の東方向や、他の国に流れていく、という構図です。

参考:環境省 漂流・漂着ゴミに係る国内削減方策モデル調査地域検討会報告書

日の出の頃にはゴミ袋がいくつもいっぱいになりました。それでも海岸一面に漂着したペットボトルが減ったようには見えず、ふとゴミ拾いに無力感を抱きそうに。すると雲間から、この世のものとも思えない程美しい朝日が降り注ぎ、光のカーテンのような光景が目の前に展開。一気に元気になりました。

5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクト_ハロウィンの朝のアースクリーンと日の出

ハロウィンの朝のアースクリーンと日の出

ハロウィンの起源となった古代ケルトの「サウィン祭」が行われた10月31日はケルトの暦で1年の終わりの日。現世と来世を分ける境界が弱まる時だったそうです。アースクリーンは、漂着ゴミの厳しい現実と大自然の壮大な美しさに心を動かされる、貴重な体験となりました。

キャンペーン終盤に流れが変わる

最初は投稿が予想より少なく、肩を落としていましたが、嬉しいことに、3週目に突入した頃から投稿が目に見えて増えました。トップ10投稿者の「リーダーボード」でも順位が入れ替わり、週に1回の発表も盛り上がります。最終日に近くなると投稿数も急伸。そう言えばオンラインショップのキャンペーンやセールでも、売り上げが急増するのは終了直前。人に行動してもらうには、締め切りが重要な役割を果たすことが改めて明白に。結局、キャンペーン中の投稿は75となりました。当初の予想値の何と7.5倍です。

5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクト_5DWorldMap

5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクト 5DWorldMap投稿

The 5th Symposium on Asia AIでプロジェクトを発表

プロジェクトの進捗は武蔵野大学データサイエンス学部のアジアAI研究所の定例会議で2週間に1回報告していました。その結果、2023年11月16日にタイのChiang Maiで開催される、The 5th Symposium on Asia AI -Collective AI: Design & Creation にてオンラインで発表の機会をいただくことに。

参加したセッションのテーマは、Cyber-Physical & Human-Activity Integrated System for Ocean Environment Improvement and Recovery: Domestic Issues。各国から参加した複数名が英語で発表します。私は日本発の「5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクト」について発表。

各国の参加者のみなさんと、プロジェクトの狙いや仕組み、結果などにつき活発に議論。石垣島の美しい自然と、漂着ゴミ問題の深刻さを伝えることができました。ペットボトルを含めたゴミによる、海や河川を汚染が広がっていることは各国共通の問題です。参加者のみなさんによると、他国ではゴミに関する意識は日本に及ばず、勝手な廃棄が後をたたないとのこと。問題はさらに深刻なようです。

石垣島の美しい自然や、地元の小学校の生徒の「海を守ろう」という願いが書かれた、ユーグレナモールでみつけたポスターの写真などを共有。加えて前述の、タイから石垣島に流れつき、私に拾われたペットボトルの写真もプレゼンテーションに仕込んでおきました。幸い参加者のみなさまには遠い日本とのつながりを実感していただけたようです。日本以外での展開を含めた今後の可能性や課題について意見を交換し、発表を終えました。

5D石垣島漂着ゴミ回収プロジェクト

The 5th Symposium on Asia AIのプレゼンテーションから

プロジェクトからの学び

キャンペーンは1ヶ月程度でしたが、多くのことを学びました。下記は私の学びを整理したものです。

  • 漂着ゴミ問題に関心を寄せる善意の人は多い。
  • しかしながら、漂着ゴミ回収は多くの人にとって、めんどうで終わりがない。人の行動につなげるのは一筋縄ではいかない。
  • インセンティブの価値が明確であれば、人の行動により大きな影響を与えることができる。抽選で地元の食材と交換できる地域通貨まーるや、手彫りの島ぞうりは効果があった。
  • 健全な競争により人の行動を促進することが可能。競争促進には、参加者の順位を明らかにするリーダーボードや、期限を設けて知らせることも重要。
  • 人と人との間のあたたかいメッセージでコミュニティの意識が高まる。
  • 利用者の「つまずきポイント」をなくし、スムーズに投稿できる顧客体験が重要。
  • ペットボトルの国別コードで漂着ゴミがどこから来ているのかを分析し、ゴミ削減の活動に活かせる。

最後に、今回のプロジェクトは事業として利益を出すことを目的としたものではありません。それでもプロジェクトを通じて、「環境保護を営利事業に直接繋げることは簡単ではない」と改めて感じました。

私を含めたスタッフはボランティアとして参加。インセンティブとなる「まーる」もスポットとして参加した当プロジェクトに対し、カヤックに無償で提供いただきました。関係者のみなさまの「応援しよう」という気持ち無くして、今回のプロジェクトは実現しませんでした。環境保護への取り組みを進めるには、人々の意識を高めることが不可欠。加えて企業の環境保護に対する営利目的でない取り組みや、国や地上自治体など行政の力が重要だと再確認しました。

実証実験は終了しましたが、私は漂着ゴミの回収を続け、美しい海を守るために何ができるのかを考えていきます。本プロジェクトやブログにつき、ご意見やフィードバックがありましたら是非お知らせください。

最後に、本プロジェクトをご支援いただいた、株)カヤック株)カヤックゼロ合)縄文企画島ぞうりファン武蔵野大学データサイエンス学部をはじめとする、すべての関係者の皆様に心より感謝申し上げます。

ご意見・お問合せ

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