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新規事業の「勝ち筋」を見つけるには
サービス・商品の企画開発
CustomerPerspective
代表取締役
事業構想大学院大学 事業構想研究所 客員教授
新規事業が生き残る確率は?
読者の皆さんには新規事業案や計画をこれから作られるという方も多いでしょう。何かを始めるときに、それが終わることを考える人は多くありません。では新規事業を始めて、生き残れる確率はどのくらいでしょうか?
米国の参考データ(*1)を引用しましょう。スタートアップが利益を出すまでには平均3-4年かかり、利益を出すことができるスタートアップは40%。10年後の生存率は30%。どんなスタートアップも資本は有限なので、ずっと利益を出せないと、単独で生き残ることはできません。黒字化できない企業内新規事業も、多くの場合整理や見直しの対象となります。
あなたの案が新規事業として実現したとき、生き残る方に入りたいですか?生き残れなくても良いですか?当然生き残りたいですよね!
新規事業案を作るときには、勝ち筋を見つけることが重要です。新規事業プロジェクトに多く接する私の経験上、「勝ち筋」を良く考えずに作った案や計画が多いことは不思議に思うほどです。そこで「勝ち筋を見つける」方法を本投稿を含む2回(予定)のブログを通して考えます。
*1 出所:20+ Must-Know Startup Statistics [2023]
米国のデータを引用した理由は、日本のスタートアップに特化した、参考になる調査が今のところ見つかっていないため。
強みを活かせば勝率が上がる
人生においては、その後の貴重な時間を費やす何かを選ぶ瞬間が幾度も訪れます。人によりますが、「何か」とは仕事、大学や専攻分野、スポーツ、音楽など。そんな時、選んだ何かで「成功したい」と考える人は「自分の強み」を意識するのではないでしょうか。自分の得意なことを活かし、人にはできないことをすれば、競争に勝ち成功する確率が高くなります。
新規事業を検討するときも考え方は同じ。新規事業で勝ち、成功するためには自社の強みを意識すべきです。
3Cの3つの円を重ねると勝ち筋が見える
この考えを可視化するために、戦略策定において最も良く使われる枠組みの一つ、3Cを応用してみましょう。
上部の円が示しているのは、顧客が求めるもの。上部の円の外側の部分は、顧客に求められていないものです。顧客に求められていない商品・サービスを新規事業で実現しても、誰も使わず、ましてやお金を払って買ってくれません。
画像の引用・リンクは自由です
青・赤・グレーで示した部分は、どれも顧客に求められていることの一部です。それぞれの違いを考えてみましょう。以下「顧客に求められている」ということを前提に考えます。
- 青=「勝ち筋」:自社の強みを活かして実現できる事業の領域。しかも他社には強みがないので、真似することが困難です。この領域ではUSP(Unique Selling Proposition)、すなわち独自の魅力の提供が可能。ここで勝負すれば成功する確率が高くなります。
- 赤=「戦場」:自社も他社も強みを活かして実現できる事業の領域。競合他社がすでに存在することが多く、レッドオーシャンと言われるのは主にこの領域。参入すると熾烈な戦いが待っています。
- グレー=「負け筋」:他社が強みを活かして実現できる事業の領域。しかもここでは自社の強みを活かすことができません。この領域に参入すると成功する確率が低くなります。
勝ち筋・戦場・負け筋 への参入 – 新規事業の具体例
「勝ち筋」分野で見事に成功した新規事業の具体例として思いつくのは、本田技研工業の「HondaJet」です。
本田技研工業は、自動車・オートバイメーカーとしての技術力を活かし、小型ビジネスジェット機「HondaJet」を開発しました。独自のエンジン配置や機体設計により、高性能と低価格を両立させ、小型ジェット機カテゴリーにおいて2017年から5年連続で世界第1位を達成するなど(*2)、ビジネスジェット市場で成功を収めています。
*2 出所:https://www.honda.co.jp/jet/release/
他社が強みを持つ分野に進出したものの、自社の強みを活かせず撤退。上の図で言えば「負け筋」に参入した新規事業の具体例としては何があるでしょうか。
ファーストリテイリング(ユニクロ) の食品販売事業「SKIP」が思い当たります。2002年に生鮮野菜などの農産物の生産・販売事業「SKIP」を開始しましたが、顧客層の獲得に苦戦し、欠品が相次ぐなどの問題から売上が低迷。開始から1年半で26億円の赤字を計上し、2004年2月末までに全店舗を閉店することとなりました。
もっとも、2004年から今日までに、ファーストリテイリングの時価総額は順調に成長を続け、同一の出所(*3)からデータを遡れる過去14年間だけでもは11.6倍に増加しています。「SKIP」撤退後、ユニクロが本来の強みを活かし、目覚ましい成長を遂げたのは素晴らしいことです。
参考記事:ユニクロ40年、体感では3年 柳井正氏「私の生きた証し」
*3 出所:IRBANK ファーストリテイリングの時価総額は1兆2283億円(2010年8月31日)から14兆3093億円(2024年8月30日)に成長
新規事業で「戦場」に参入した具体例はどうでしょうか。これはたくさん見つかりそうです。
例えば、携帯電話事業に後発として参入した楽天グループの例が思い当たります。2023年通期では、楽天のモバイルセグメントの営業損失額は-3375億円。売上収益は前年比3.9%成長、営業損失額は前年から1417億円減少しており、改善はしています。この戦場では未だ勝負はついていませんが、今後の動向から目が離せません。
出所:楽天グループ株式会社2023年度通期および第4四半期決算ハイライト
「勝ち筋」を見極め、成功に近づくには
新規事業プロジェクトに関わっていると、「戦場」や「負け筋」に突っ込んで行こうとする企業が多いことに驚きます。それは例えるなら、渋滞する高速道路に突っ込んで行くドライバーのようなものです。私は以前、2桁km続く渋滞を知りながら車で高速道路に乗った上に、ETCカードの有効期限が切れており、大変な目に遭いました!
新規事業を計画するにあたり、「勝ち筋」を見つけ、見極め、一歩でも成功に近づくにはどうすれば良いでしょうか。計画を実行に移す前に、一見当たり前のことをすることで、勝率は上がると私は考えています。
第一に、新規事業で活かせる自社の強みを明確に意識しましょう。本ブログの最初に、人生でスポーツや学校、仕事を選ぶこととの比較をしました。人生においても自分の強みを客観的に認識するのは必ずしも容易ではありません。自社の強みの認識も同じ。新規事業に活かせる自社の強みを列挙し、本当に強みなのか、強みを守れるのかを、周りの人の意見も聞きながら客観的に深掘りしましょう。
強みの源泉となるのは自社の経営資源。中でも希少性が高く、容易に模倣ができない経営資源です。具体的にはノウハウ・技術・知的財産・顧客基盤・販売チャネル・ブランドなど。このテーマは重要で深いので、将来別のブログ投稿で検討したいと考えています。
第二に、同じ事業に参入している「最も手強い競合」を複数挙げ、その強みについて分析しましょう。「強み」を分析する上で注意したいことが一点あります。ここでの「X社はYが強い」の主体は提供者であるX社なので、どうしても提供者視点で考えてしまいがちなことです。重要なのは、「顧客の視点で『魅力のあるもの』を提供できる強さ」です。2次情報の調査だけでなく実際に競合の商品やサービスに接し、可能なら使って、顧客視点で評価してみましょう。消費者向け(B to C)の商品・サービスならなおさらです。
これらの検討や分析には手間も時間もかかります。それでも負け筋に突っ込み大変な思いをすることに比べたら、小さな投資と言えるのではないでしょうか。
本ブログが新規事業を検討する皆様のお役に立てることを願っています。
関連リンク
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