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新規事業案を伝える秘訣 – W3と「ひとこと」の力
Working Backwards サービス・商品の企画開発
株式会社CustomerPerspective
代表取締役
紣川 謙
Ken Kasegawa
Contents
その新規事業、ひとことで説明できますか
何ヶ月にもわたって準備してきた新規事業案の発表。発表者にとっては晴れ舞台、関係者や評価者からなる聴衆も興味津々。そこで質問です。「『その新規事業を、ひとことで』はじめに明確に説明できていますか?」
最初に聴衆の興味を強く惹きつけることができれば、残りの発表も真剣に聞いてくれること間違いなし。ところが私の経験からは、最後まで発表を聞いても、どういう新規事業なのかはっきりしない提案は少なくありません。どうすればアイディアが明確に伝わるでしょうか。本ブログでは「新規事業のアイディアを簡潔に伝えることの重要性と、明確に伝えたい核心要素 – W3」について書きます。
情報量と伝わりやすさは比例しない
新規事業の提案でよく使われるプレゼーテンションツール。そのひとつ、パワーポイントで格好の良いプレゼンテーションを作れる人はたくさんいます。与えられる時間にもよりますが、新規事業の発表に使われるスライド数を平均すると15~20程度でしょうか。
背景・環境分析・統計や調査データ・事業をとりまく利害関係者・ビジネスモデル図とお金の流れ・収支計算・・・情報は盛りだくさん。それでも伝わらないのは、多くの場合、新規事業案の最も重要な要素が明確になっていないからです。アイディアの核心なくして、たくさんの情報があると、聞き手は混乱してしまいます。
核心要素 -3つのW- は簡単には書けない
新規事業のアイディアを伝えるために、核心となる要素があります。顧客は誰か(Who)。提供する商品・サービスは何か(What)。顧客がその商品・サービスに価値を感じる理由は何か(Why)。ここでは新規事業のW3と呼ぶことにします。W3を簡潔・明確に説明できていない新規事業案がなんと多いことか!
注:画像利用・リンクは自由です
参考記事:The W3 (Who, What and Why) Framework – 文脈は異なるがW3の重要性はセールスでも同じ
当たり前のようにも思えるこれらの要素が明確になっていないのは何故でしょうか。その理由は、単に「情報を集めて加工する」だけではW3を明確に書けないからだと私は考えています。提案者が真剣に考え・仮説を立て・潜在顧客の声を聞き・検証しないと、明確になりません。仮説を立て、潜在顧客を探し、検証を重ねるのは時間も手間もかかる作業です。
勇気も必要。潜在顧客にアイディアを共有したら、最初はネガティブな反応が来ることも当たり前*。時間・手間・勇気なくして「伝わる」新規事業案は作れません。
*関連Blog:ネガティビティ・バイアスの罠を避けるには
エレベーターピッチにW3を入れ込む
エレベーターピッチという言葉を聞かれたことはありますか?「起業と資金調達を計画しているあなたが、偶然投資家と同じエレベーターに乗り合わせ、30秒間で自分の新規事業案の魅力をどう伝えるか?」こんな状況を想像してください。エレベーターピッチとは、自分のアイディアを売り込むための、短い説明(ピッチ=売り文句)のこと。
由来については諸説あります(詳しくはこちら)。私の印象に残っている逸話は伝説的な会長ジャックウエルチがいたころのGEで社員がエレベーターピッチを用意していたという手記や、シリコンバレーのスタートアップがベンチャーキャピタリストにアイディアを売り込むのに使う、といった話。
新規事業案のエレベーターピッチに含める内容は決まっているわけではありませんが、3つのWはその核心。世の中で使われているエレベーターピッチの具体例を見ることで書き方のヒントを得ることができます。
アジャイル開発で使われるエレベーターピッチ
現在ソフトウエア開発の主流となっているアジャイル開発では、「エレベーターピッチ」がその手法の一部にもなっています。アジャイル開発の手法を包括的に紹介した The Agile Samurai によると、アジャイル開発の開始時につくるInception Deckに含めるべき、エレベーターピッチのテンプレートは下記の通り。
日本語訳(補足付き)と具体例を私自身でつくってみました。W3 – Who, What, Whyがエレベーターピッチの要素にになっていることにご注目ください。
- [こんなニーズをもつ] (Why)
- [対象顧客]向けの (Who)
- [プロダクト名]は (What)
- [こんなメリットや購買理由がある] (Why)
- [プロダクトのカテゴリ]です。(What)
- [主な競合]とは違って、われわれのプロダクトは[ここが差別化要因です](Why)
- 仕事で移動するためにタクシーを利用したい (Why)
- ビジネスパーソン向けの (Who)
- Goは (What)
- アプリで簡単に、今すぐ、自分がいるところまでタクシーを呼ぶことができる (Why)
- タクシー配車サービスです。(What)
- 競合で(無料の)フルクルとは違って、Goでタクシーを呼んだら(迎車料金はかかりますが)確実に配車してもらえます。(Why)
エレベーターピッチに始まり、A4一枚で伝えるWorking Backwards
アマゾンが新商品・サービス設計に使うWorking Backwardsでは、仮想プレスリリースを作成します。そのプレスリリースは原則A4版1ページ。限られたページ数・文字数の中で、簡潔にまとめることが重要。その導入部分のヘッダー(件名)、サブヘッダー(一言説明)、概要を、まとめて私はエレベーターピッチと呼んでいます。この数行だけで「ぜひこのアイディアの実現に協力したい」と読み手に思ってもらうことが勝負。W3 – Who, What, Whyは不可欠の要素です。
参考:私が書いたWorking Backwards 仮想プレスリリースの例
私が監訳した書籍 Working Backwardsの日本語版でも、簡潔にまとめることの重要性を伝えることに苦労しました。プレスリリースは横書きですが、A5版の書籍1ページには収まりません。A4版1ページで短くまとめることの大切さを伝えたい。そこで私が出版社のダイヤモンド社にご提案したのが、下記のような構成。メールでやり取りしてお伝えしにくかったため、手書きのスケッチ(=プロトタイプ)を送りました。
編集者の方からは「なるほど……!そういうイメージだったのですね!?考えてもみませんでした。」との驚き!と戸惑い?にあふれるお言葉。お心の広い編集者様のおかげで、出版された書籍では、私のイメージ通り (p214/215)になりました。
ひとこと説明から始めてみよう
新規事業を提案するなら、どんなアイディアか、ひとことで説明してみましょう。その中に、W3 – Who、What、Whyを入れましょう。
エレベーターピッチを書いて、人に読んでもらいましょう。
さらに踏み込んで、A4一枚で仮想プレスリリースを書いて、フィードバックをもらいましょう。
新規事業案の発表で成功したいなら、時間と手間をかけ、勇気をふるう価値があるはずです。読んだ人が身を乗り出してきたら、その新規事業にはきっと大きな可能性があります。
関連リンク
Working Backwards(ワーキング・バックワーズ)日本語版「アマゾンの最強の働き方」(ダイヤモンド社刊)
Working Backwards(ワーキング・バックワーズ) – BezosとJobs、Backcastingの思考に見る独自性と共通点